コラム「一顧一言」

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2019/03/11

行政機関における業務対応の不合理性の実情

1.はじめに
 その業務の適正を図り、もって労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与する(社会保険労務士法第1条前段)のは、社会保険労務士の使命と心得ています。
 社会保険労務士は、「労働及び社会保険行政に対するパートナー」と位置づけられてしかるべきと考えますが、実際には、業務処理の円滑な実施を図るべく、労働及び社会保険の適用事業所に係る情報の提供を求めた場合でも、行政機関の仲間同士では共有し合う情報であっても、社会保険労務士に対しては、個人(?)情報保護の名義の下に、その提供を拒否されることが少なからずあります。
 行政側に「社会保険労務士はパートナー」という認識が持たれていないということであれば、非常に残念としかいいようがありません。

2.労災保険関係
(1) 事業主印について
 有期一括事業に係る保険関係が消滅し、確定保険料を計算した結果、還付金が発生し、還付請求書を作成し、代表者印を押して大阪労働局に提出しました。提出から7か月が経過した頃になって、代表者印が適正でないので押し直して提出するよう書類が返戻されてきました。
 押印された代表者印の印影は、通常の丸形の印で外側に会社名が刻印されており、中心部には代表者印と刻印されたものです。過去のすべての関係書類にはこの印を押してきましたが、不適正として返戻されたことは一度たりともありません。
 返戻された付箋に添付された適正と認められる印の例を検証したところ、中心部の刻印が「代表者印」では不適正で「代表取締役印」であれば適正ということでしたので。やむなく適正と示された印影(会社名の角印と代表者の認印)に押し変えて再提出しました。
ちなみに、商業登記法においては印影の真偽を担保するために印鑑証明書の添付を明文で規定しています。また、金融機関等では取引の安全を担保するために印影の登録制度を採用しています。しかしながら、労働保険関係においては、印影の真偽について施行規則等において明文で規定しているわけでもなく、登録制度を導入しているわけでもありません。
 このような対応は、全く“理解不能”といわざるを得ません。

(2) 特別加入者にかかる給付支給請求書について
 休業補償給付支給請求書(様式第8号)の記入にあたっては、裏面に次のような注意事項が記載されています。
 四、請求人(申請人)が特別加入者であるときは、
 (二)、⑦、⑲、⑳、㉝、㉟及び㊲欄の事項を証明することができる書類その他の資料を添付して下さい。と、そして、この注意事項に則って「特別加入者災害証明書」を添付しているところです。この注意事項は、労災保険法施行規則第46条の27第2項の規定によるもので、異論の余地はありません。
 (三)、事業主の証明は受ける必要はありません。と、記載されています。にもかかわらず、労働基準監督署労災保険課が、事業主の証明は必要であるとの対応をとり続けていることは、全く“理解不能”といわざるを得ません。

3.返信用封筒について
(1) 税務署の場合
 源泉所得税にかかる年末調整の結果、還付する税額が徴収する税額を超過し、納付すべき税額がない場合に、いわゆる“0納付書”を作成し、税務署に提出しました。領収証書に受付印を押して返送してもらえると思っていました。ところが、いっこうに返送されてきませんでしたので、税務署に電話で確認したところ、「税務署には切手は用意していませんので、領収書等の書類の控がほしければ、返信用切手を貼付した封筒を同封して下さい。」さらに、切手を用意していない理由を尋ねると、「かっては、切手を用意してありましたが、職員がそれを着服した事件があり、それ以降、税務署では切手を用意するのをなくしました。」とのことでした。職員(公務員)の不始末の是正を、国民(主権者)に尻ぬぐいさせていると考えるのは小生だけでしょうか?
 所得税徴収高計算書(納付書)の提出は、法令で事業者等に義務づけられています。その義務者たる事業者等が提出の手段として郵送を選択した以上、その郵送費用は当該事業者等が負担すべきは当然の理です。一方、領収証書は税金を領収した税務署が税金を納付した事業者等に交付することを義務づける書類です。税務署がその義務を履行するための手段として郵送を選択するのであれば、その費用は税務署が負担(税金)するのは当然の理といえます。しかし残念ながら、税務署はこんな当然の理が通用するところではないようです。

(2) 公共職業安定所の場合
私たちが雇用保険の適用に係る届出書類を郵送にて提出する際には、返信用封筒を同封するとともに、返信用切手と個人情報保護の観点から特定記録分の切手を同封するよう協力依頼を受けます。しかしながら、法律上個人情報保護の対応が求められるのは、原則として行政側です。にもかかわらず、その費用負担を国民側に求めるのは、本末転倒といわざるを得ません。
労働保険事業にかかる費用原資は、労働保険料と国庫負担です。雇用保険における被保険者資格の確認通知書の交付は、法令で定められた公共職業安定所長の業務です。その業務を遂行するために税金を使うことは、紛れもなく「国民奉仕」の理念に則るものと考えます。
 ちなみに、健康保険・厚生年金保険法による決定通知書や被保険者証は、保険者(日本年金機構、協会健保)側の負担による普通郵便で送られてきます。そして、今日に至るまで郵便による個人情報流失が問題になったこともありませんし、今後もないと信じています。
  なぜなら、個人情報流失が顕在化するのは、殆どの場合コンピュータ・ウイルスによるインターネット上の事故だと思っています。そういう意味では、電子申請の方がよりリスキーと考えられます。

【文責:日髙博幸】

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